Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き~
「急にどうしたんですか?」
「まあ、ちょっとね……お詫びも兼ねてってことで」

 やっぱり、と紗綾は心の中で呟く。
 昨日のことが関係しているのではないかと思ったのだ。彼はとても律儀なところがある。

「お詫び?」
「昨日、折角、見学に来てくれたのに嫌な思いをさせてしまったからね」

 紗綾は香澄に昨日のことを言っていなかった。
 彼女が切り出さなかったから黙っていたのだが、気付いていなかったようだ。

「昨日、来たの?」
「うん、色々あって、帰っていいって言われたから……」

 何だか悪いことをしたような気分になりながら紗綾が言えば、香澄は何やらショックを受けたように頭を抱えた。

「嘘っ、全然、気付かなかった!」
「君もまだまだだね、田端君」
「部長だけずるいですよ!」
「ずるくないよ。まあ、集中しているっていうのはいいことだよ」

 クスクスと将也が笑えば、香澄がくわっと噛み付く。
 陸上部の先輩と後輩、こういったやり取りは何度か見ているが、面白いものである。
 部の中でも噂が立つのも納得できるほど仲の良い二人だと紗綾は思っていた。
 しかし、そこで香澄がぴたりと動きを止めた。
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