メモリ・ウェブスター
「モスラバーガーうまい」
 私は率直な感想を述べた。
 が、「モス、ね。モスバーガーだから。てかあんた何歳?色男だからって〝モスラバーガー〟とかいう間違いは容赦しないから」 
 とモスバーガーを美味しそうに頬張りながら雀は訂正した。彼女に関していえば鳥類に分類されるスズメのように穏やかに飛び回る性格ではないらしい。
 
「十八だ」
 彼女の質問に答え、私もモスバーガーを再び頬張った。頬張る度に、刻んだタマネギが包み紙に降下した。やはりこの地球上には重力が存在することを実感した。
「へえ」と雀は息を吐きかけるように声を出し、「わたしの一個上なんだ。あんたみたいな先輩が学校にいたら、さぞ楽しいだろうね」
 雀の癖だろう。ストローを噛みながらダイエットコークを飲んでいた。目線を私に合わせながら。それに、何かを〝噛む〟という行為は一定のストレス化にあることを如実に提示している。 
 私にストレスを感じているのだろうか?
「で、政府側から選ばれたわけだろ?」
 私はさっぱりとした口調で訪ねた。ストレスを感じて欲しくないからだ。まあ、私がストレスを与えていると決まったわけではないが。
「そうよ」と毛先をいじりながら雀は言い、「お母さんに届けて欲しいの」と陰のある表情を見せた。
 はて?
 政府から渡された調査依頼書を私はもう一度見る。父親と二人暮らし。母親は、死亡。となっている。死亡欄に交通事故と殴り書きがされていた。
「死んでいる」
「ストレートだね。自分に自信がある人ってなんでストレートに物を言うかな」
 雀が口角をきゅっと上げた。私はこの時察した。先ほどの陰のある表情が真実の彼女なのだ。無理矢理にでも明るく振る舞っているぎこちなさを感じた。
「いけないか?」
「いけなくはないけど」と雀は小首を傾げ、「それに話す言葉に抑揚がない」と鋭く指摘した。
 抑揚がない、というのは、ジジとババにも言われた。言いつけは守るようにしているが、言葉の抑揚だけは治らない。自分に問題があるのはわかっている。なにせ、記憶を抽出し、そこから任意の記憶は編む作業をマスターするのに時間がかかった。今更、言葉使いに抑揚を持たされることは不可能に近い。
< 7 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop