恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
ストレートすぎる言葉しか浮かばなくて、けれどそれが一番良いような気がした。


「自惚れたまま、話します。私、藤井さんの気持ちには応えません」


その言葉に、藤井さんの表情は反応が乏しくて。
指が、とんとん、とハンドルでリズムを刻む。


なんの演出か、偶々吹く風に髪が靡いて片手で抑えることで気まずさを紛らわせた。


ふと、彼の表情が和らいで。


「なんですか」

「らしい、言い方だと思って」


いつもの人をからかう時の、悪そうな笑顔で手が伸びて来る。
また鼻を抓まれるのかと、咄嗟に手で覆い隠したら標的は額だった。


「いたぁっ」


手加減なしのデコピンをくらい、慌てて体を起こした。


「自惚れだな。」


にや、と唇を歪ませてそう言うとサイドブレーキを下ろす仕草が見えた。


「それならそれで、いいんです」


額を摩りながら、唇を尖らせて見下ろすと、視線が絡んで外せなかった。
それは、ほんの数秒のこと。


またな、と呟いて返事も待たずに車を走らせて、私は小さく手を振った。


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