恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「あ」

「……おぉ」


倉庫へ向かう通路の途中で、久々に顔を見る。
彼女の視線は決して好意的なものではなかったが、無視するわけにもいかない。


彼女の手にあるのはメモと大きめのショッピングバッグで、少し嫌な予感はした。


「久しぶり。商品補充?」

「そう。瑛人君も?」


ってことは、行き先は同じ倉庫だということで。
恵美ちゃんと並んで歩くことになる。


どの店舗も忙しく、バックヤードの通路であっても頻繁に人が行き交う。
だから別に、沈黙を気まずく感じる必要はないのに、居心地が悪い。


「な、狭山、どうかした?」


何か言葉を探そうと思ったら、出たのがそれで。
考えてみれば、常に狭山が間にいたのだから当然だ。


「…どう、って?」

「いや、痩せたような、覇気がないような。顔色悪かったから」


遠目にしか見えないけど、そう気がついて暫く見ていれば、カナちゃんや店長が気遣っているような様子に思えた。


無言だったのでちらりと横に目線を走らせれば、恵美ちゃんの眉間に深く皺が刻まれていて。


「…なに。なんかあんの?」

「気になるなら自分で聞けばいいのに。そんなことに気がつくくらい、心配なんでしょ?」


ぐ、と喉を詰まらせる。
彼女と話をすると、どうしても狭山の話で、そうなるといつもこの展開。


そっと溜息をついたことに、気がついたみたいで。
大きな目で睨まれた。


「ほんとにこのままでいいなら、私もこれ以上言わないけど。ほんとにいいの?」



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