恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
以前から、ちらりと思っていたことがある。


そうだ、あの商品違いのミスが会った時の、年配の女性に応対している時にも思ったことだ。


笹倉は、おじ様おば様受けが良い。





結婚を決めた日の翌日のこと。
彼が私を送って、そのまま両親に挨拶すると言い出した。



「ちょ…っと待って!いくらなんでも、私の心の準備が」

「こういうのは躊躇うと余計しんどいって。気が向いてるうちに、さっさとやった方がいい」



私は全然、気が向かないよ。
ていうか、すべてがハイテンポでまだついてけない。


渋っていると、彼が私の携帯を差し出して言った。



「正式にはちゃんと改めて行くけど、とりあえず挨拶だけはさせて」



…ちゃんと父親がいるかどうか電話確認しておけ、という意味だろう。
私は、渋々携帯を受け取る。


そう言えば。
はた、と思い至って、携帯を開こうとしていた指が止まる。



「ねぇ、ちゃんと話したことなかったけど」

「うん?」



まぁ、鬼電やら何やらで散々慰めてもらったし、ある程度は察してるだろうけど。


「私のお母さん、アル中で肝臓壊して、今入院中なの」

「あ、入院してるんだ。じゃあ、お見舞いがてら挨拶」

「……」


躊躇いのない彼が、嬉しいけれども。
やっぱりテンポは緩まないのか。


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