恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「待ち合わせ、何時?」

「11時だから、10時には出るよ」

「2時間以上あるだろ。朝一、運動しとこうぜ。はい、万歳!」



掛け声と同時に、ずぼっと思い切りよくキャミを脱がされた。
開放感で、そういやノーブラだったと思い出す。



「もう……後でシャワー浴びるからね。時間計算しといてよ」

「了解、美里」



くす、と含み笑いを引き連れて、耳許で吐息混じりの囁き。
じわりと身体の中心に生まれる熱がある。



「…こういう時だけ、名前で呼ばないでよ」

「いいじゃん、多少は雰囲気も必要でしょ」

「いらないでしょ、私らには。ただの運動なんだし」



生まれる快感に身を寄せたくなるけれど
没頭するには早すぎる。


会話で紛らわしながら、じっくりというのがいい。


どちらからともなく、触れるだけのキスを繰り返す。
手のひらでお互いに欲情を煽りながら、会話に色気は皆無だった。


甘い空気も愛の言葉も
私達には必要ない。



お互いに好きも嫌いもなく。
週に1、2度大抵は仕事上がりに会って「運動」する。


私達にとっては、それ以上の意味はなかった。
言ってみれば余暇のジム通いのようなものだ。


一年前、ちょっとした過ちからお互いの価値観が同じだと気づき、以来ずるずると続いている。



「集中しろよ、美里」



少し意識が余所に向いていた隙。
わざと首筋に唇を這わせて話すから、ぞくりと欲情して思わず背筋をしならせた。

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