君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「うん...」


「さっ!仕事に行きますか。そろそろみんな来る時間だし」


時計を見ると、出勤してくる時間だった。


「そうね。...あっ、お土産、本当にありがとう」


「...さっき聞いたわよ」


ーーーーーーー

ーーー

着替えを済ませて秘書課へ行き、スケジュールを確認する。


今日はまず朝一で、一社外回りか。


エレベーターに乗り、営業部へと向かう。


そして頭に浮かぶのはさっきの橘さんの話。


東野さん、本当に異動なんてことにならないわよね?

そりゃ海外への赴任なんて凄いことだし、喜ぶべきなのかもしれないけど...。
私は一緒じゃないでしょ?

第一、一緒に行っても務まる自信がない。
英会話はそれなりに取得してるけど、仕事となったら話しは別。


...私の未来予想図に、海外で仕事するなんてこと、描いたことなんてなかった。


東野さんは海外で仕事をしてみたいって、思ったりしてるのかな?


そんなことを考えながら営業部のドアを開ける。

ドアの向こうへ1歩踏み入れれば、忙しい日常。

挨拶をしながら、いつものように奥へと進む。

就業開始時間前だというのに、本当にみんな出勤時間が早い。東野さんを筆頭に。


「おはようございます」


「おはよう」


一昨日の夜まで一緒にいたっていうのに、今は信じられない。


あんなに甘い夜を過ごしたっていうのになぁ。


「...櫻田?聞いてるのか?」


「あっ...」


ヤバイ!!何やってんのよ、私!


「すみません、聞いてませんでした...」


「休み明けだからって理由は通用しないぞ」


「はい...。すみませんでした」


あれほど仕事だけはちゃんとやろうって決めていたのに。


「今日の予定だか...」


「はい!」


スケジュール帳を取り出した時、急に営業部内が騒めく。


「なんだ?」


立ち上がり入り口の方へと進む東野さんの後を追う。


「副社長...?」


えっ...?

駆け足で副社長の元へと向かう東野さん。

私の足はここで自然と止まってしまった。


「副社長、おはようございます」


「おはよう。急に悪いね、みんなも気にせず仕事続けてくれていいから」


そうは言っても、みんな副社長が気になって仕事にならない様子。


そりゃそうよね。副社長がこんなに近くにいるのに、集中できるわけないわよね。

それにしても、どうしたのかしら。急に営業部に来るなんて。

しかもタイミングが良すぎるわ。橘さんの話を聞いた直後に来るなんて...。


とにかく挨拶をしなくちゃ!と思い、慌てて副社長の元へと向かう。


「ご挨拶遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。おはようございます。出張お疲れ様でした」


「おはよう、櫻田さん。ありがとうね。...と、櫻田さんもいてくれて、ちょうどよかった。紹介したい人がいるんだ」


「紹介、ですか?」


誰だろう...?


「お待たせ!どうぞ」


ドアに向かって叫ぶ副社長の声に、自然と視線はドアへと向かう。


『失礼します』


ドア超しに声が聞こえると、姿を見せたのは若い女性だった。


「悪いね、待たせちゃって」


ゆっくりとこちらへ歩いてくる女性。


...あれ?この人、確か...。

思わずジッと見つめてしまう。


そして隣から聞こえてきた大好きな人の声。


「えっ...」


今、東野さん何て言った?


ーーーーーー

ーーー




『奈津美...』



それはとても小さくて、聞き逃してしまいそうな声だった。




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