君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「...一人で帰れます」


完全に手は離され、私は笑ってこの場を後にした。


後ろから追い掛けてくる足音は聞こえない。


次第に進むスピードは早くなり、出口を抜けて、ちょうど来ていたバスに乗り込む。


一番後ろの席に座り、窓の外へと視線を向ける。


「...これで本当に良かったんだよね?」


これが一番いい答えなんだよね。もう幸せになって欲しい。それが私の幸せでもあるから。
...そう決心したのに。
なんでこんなにも涙が止まらないんだろう。


答えを間違ってないはずなのに...。
最後に見た東野さんの顔がさっきから、頭から離れてくれない。胸を締め付けられる。
ーー...これでよかったはずなのに、なんで東野さんは、あんなにも悲しい顔をしていたの?


ーーーーーーー

ーーーー

バスを降りて、家へと向かう。



翔ちゃんと桜子、家にいるかな?まだ起きてるよね。こんなに早い時間だもの。
こんな酷い顔して帰ったら、二人ともびっくりしちゃうだろうな。


驚く二人を想像すると、なんだか笑えてしまった。


「あー...やだやだ!なんでこんな時に笑えるのよ」


空を見上げると、冬の星空が広がっていた。


「...おかしいな。泣きたい時には、必ず雨が降るはずだったんだけどな...」


こんな時でも私、笑えるんだーー。
ううん、笑っていかなくちゃ。だってそうでしょ?自分が望んだ現実なんだから。


「...おかえり、菜々子」


「えっ...」


暗い夜道。正面からやって来た人影。


「翔...ちゃん?どうしてここに..?」


私、今から帰るとか連絡してないよ?


「どうしてだろうな?...自分でも驚くほど分かっちゃうんだよ、菜々子のことが」


ゆっくりと、一歩ずつ私へと近付いてくる翔ちゃん。


「今朝、菜々子の様子がいつもと違うなって思った。気になって気になって...外に出て来てみたら、弱りきった菜々子が帰ってきた」
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