2LDKの元!?カレ

彼女と別れてホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。

最寄り駅で電車を降りると、駅前の不動産屋の前で足を止める。

「あれ、このマンション」

店のウインドウに貼られている物件情報。

その中にある売り物件と書かれたマンション名に思わず目を奪われた。

「あの、すみません。表に貼ってあるマンションなんですけど」

私は店の中に入り、カウンターの中にいる男性に声をかけた。

「いらっしゃいませ。こちらの物件でございますね」
「そうですこれです。今から見に行きたいんですけど」

買いたいと思った。このままもし、一人で生きていくにしても、私の原点はここにある気がしたから。

「今、別の担当者がお客様をご案内しているところですが、値段の割に古い物件ですのであまりお勧めはできませんよ」
「それでもいいんです」

担当者は渋々ながら私を車でマンションまで連れて行ってくれた。

懐かしいドアを開けると、靴が二つ並んでいた。

その片方の革靴は几帳面に揃えられて、いつものあの場所に置かれている。

だから私には、靴の主が誰なのか分かった気がして。

おもむろにパンプスを脱ぎ捨てると、担当者の制止も聞かずに廊下を駆け抜けてリビングのドアを開ける。

窓際に立つスーツ姿の男性は、突然入ってきた私に驚きながらも優しく微笑んだ。

いつ日本に戻ってきたのか、どうしてここにいるのか、聞きたいことは山ほどあるのに。

まったく言葉にならなくて。

「志保子」
「……聡、どうして」
「帰ってきた。まさかここが売りに出されてるなんて驚いたよ」
「買うつもり?」

そう訪ねると聡は静かにうなずいて見せる。

「ああ、買いたい」
「だめ、私に譲って。私、仕事も家事も、ちゃんと一人で頑張ってる。自立した女になれたと思うから……だから」

懇願するように訴える私を見つめて、聡はゆっくりと首を振った。

「だったらなおさら譲れないな」
「……え、どうしてそんなこと言うの?」
「オレが買う。そしてまたここで一緒に暮らそう。おいで、志保子」

聡はそういって両手を広げて、私は躊躇いなくその胸に飛び込んだ。



END
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