2LDKの元!?カレ

柄を握る手には白い手袋。

そこから辿るように上へと視線を滑らせていくと、黒いスーツの袖が見えた。

見上げれば、ドアマン。初めて彼を間近で見たが、胸に光るゴールドのネームプレートにはローマ字でコミヤマとある。

彼は低く響く声で「この傘は差し上げますので、本日はもうお帰り下さい」
そういって傘の柄を握らせようとする。

「いりませんし、帰りません」

私が拒否の姿勢を見せると、大きなため息を吐きだした。

「ご了解いただけない様なのでハッキリと申し上げますが。そこに立っていられると、当店の美観を損ねるのですよ」
「美観を損ねる?」
「ええ、今夜は海外から国賓級のお客様をお迎えする予定です。あなたは日本の恥になりたいのですか?」

邪魔だ、迷惑だと罵られるより、余程耳が痛い言葉だ。

けれど『はいそうですか』といってそう易々と帰るわけには行かない。

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