オクターブ ~縮まるキョリ~
その日の放課後、私はひとりで図書室に来ていた。
みんなが書いた歌詞を、とにかく早く読みたかったからだ。
どんな言葉が生まれたのか。
どんな表現がなされたのか。
みんな、どんなことを考えているのか。
次々と読み進めて、パラパラとページをめくる。
なんとなくみんなおなじようなものを書くのだろうと想像していたが、私の予想は若干外れていた。
もちろん、一番メジャーなのは「友情」に関することなのだが、人によっては「挑戦」や「努力」といったことをつづっていたり、「家族」や「恋愛」を題材にした歌詞も少なくなかった。
たまに、ハンバーグの美味しさについて延々と語ったものとか、ラップ調に韻を踏んで「Yo」とか入れているものもあったりして、読むことは思ったほど苦にならなかった。
「…………」
下校時間の間際、私はひとつの気になる歌詞を見つけた。
それは、子供のころの思い出について描かれていたものだった。
近所の公園で、探検ごっこをしたこと。
自分の好きな友達の取り合いで喧嘩になり、わんわん泣いた日のこと。
勇気を振り絞って、ごめんねを言った時のこと。
どれも、私自身の経験にあてはまるものだった。
読み進めるほど、昔の記憶がよみがえっていき、途切れ途切れの時間旅行をしているような気分になった。
「……素敵だな。」
私はその歌詞にナンバリングされた、「37番」の数字にシャーペンで丸印をつけた。