オクターブ ~縮まるキョリ~


昨日の夜、私は早くベッドに入ったものの、なかなか寝付けなかった。
それは、暑さのせいだけではなく、始まろうとしている夏休みのことを考えていたからだ。


…訂正する。
考えていたのは、「夏休みのこと」というより、「春瀬くんと夏休みのこと」だった。


今日は終業式の日というだけでなく、「夏休み」の始まりに相応しく、近所の神社でお祭りがあるのだ。
そして、クラスのみんなでそれに行こうという話が持ち上がっていた。
もちろん、提案したのは春瀬くん。
クラスメイトの、主に女子達が「浴衣を着たい」「花火もしたい」と盛り上がっていた。


私もそれに乗っかって、浴衣で行こうと決めていた。
それで、張り切って昨日の夜に浴衣を用意していたのだけど、二つあるうちのどちらにしようか悩んでいる内にどんどん夜が更けていってしまい、コレと決めてベッドに入った後も、悶々と繰り返し悩んでしまっていたのだ。


いつの間にか、花井先生が教壇に立っていた。


「それではみなさん、終業式があるのでホールへ向かってください」


教室のざわめきは、廊下へと溢れていった。

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