私、ヴァンパイアの玩具になりました
「…ふぅ……、コレくらいで大丈夫ですね…」

今、何時でしょうか…。

外をチラッと見ると、夕日が顔を隠していた。

「……あ、ちょうど暗くなってきてますね…」

…もうリビングへ向かった方が良いかもしれません。

そう思い立った私は、髪の毛をほどくと椅子から立ち上がる。

と、同時にコンコンと扉が鳴った。

「あ、…はい!」

私は扉まで早足で向かう。そして、扉をゆっくりと開けた。

扉の外にいたのは無表情の嶺美さん。口をゆっくり開く。

「……メシ。早くしろ」

「はい!…………あれ?一緒に行っても良いんですか?」

「…嫌ならいい」

「嫌なんて、そんな!」

私は手を沢山横に振る。そんな私をみて嶺美さんは、口元を少し緩めた。

「ふっ………、お前本当にバカだな」

でも、すぐに無表情に戻ってしまう。

…それに、バカを強調されました…。

「うっ…………」

なんか…、嶺美さんのバカは結構傷つきます…。……多分、凄い無表情なので…迫力が…あるのでしょう…か…。

「…早く行くぞ、バカ」

「は、はいぃ……」

私は返事をすると、部屋から出て嶺美さんと二人でお話しながらリビングへ向かった。

でも、まぁ…ほぼ私が一人で話していただけですけどね…。


お話しながらリビングへ入って私はビックリ。

リビングにはまだ誰一人いなくて。

「………あれ?」

「……………?」

嶺美さんも何故、こんなにも誰もいないのか分からなくて少し首を傾げていた。

おじさんまでも…いませんね…。

「どこにいるんでしょうね?」

「…さぁ…。………あ…」

「どうしたんで……、あ……」

嶺美さんがふと視線を向けた時、嶺美さんは声をもらした。

不思議に思った私も嶺美さんが向けた視線の方へ視線を向けると。

…まだ七時にもなっていない時計の針がカチカチと一定に音を鳴らしていた。

「「………………」」

二人には何ともいえない無言の空気が流れる。

そんな空気を壊すのはやっぱり私。

「は、早かったですね」

「あぁ…」

「み、皆さん、後どれくらいで来るんでしょうね」

「さぁな…」

嶺美さんはそう答えて時計を眺める。

「「………………」」

か、会話が続きません…。私のトーク力が無いだけでしょうか…。

嶺美さんが返事をしたら終わってしまいます…。

「嶺美さんは、…その…。…なんで私の部屋までわざわざ迎えに来てくれたんですか?」

「………別にバカには関係ないだろ」

私が問いかけると嶺美さんは肩を少し震わせて自分の席に座るとヘッドホンを耳にかけた。

「うっ……、そうですよね…」

嶺美さんに聞こえてる筈もないのに私は、独り言のように返した。

…嶺美さんにまたバカって言われちゃいました…。

「………………」

私、嶺美さんにまで嫌われてるんでしょうか…。そんなに私とお話しするのが嫌なんでしょうか…。

「おい、バカ」

「は、はい!」

「早く俺の前に座れ、突っ立つな」

「す、すいません!」

私は反射的に謝ると、嶺美さんに言われた通り嶺美さんの前に腰掛けた。

…あ、あれ?前に座っていいんでしょうか?わ、私とお話しするの嫌じゃないんでしょうか?

そんな私の不安をよそに、嶺美さんはヘッドホンを外して綺麗な唇を開いた。

「…………お前さ」

いつもより低い声の嶺美さん。

なにか怒られるのかな、と少し身体を強ばらせる。
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