私、ヴァンパイアの玩具になりました
長い長い入学式も終わり、私達が教室に戻った後。

先生のお話を聞いて、一つとてもビックリな事があったんです。

………なんと…。

「この学園には、ヴァンパイアがほぼ九割。人間が一割しかいないのは知ってるわよね?それと、今年の一学年一クラスに人間が多くても三人しかいません。……このクラスには……。神咲優さんしかいませんね。…くれぐれも、理性を無くして神咲優さんを殺さないように気をつけて下さい」

綺麗な先生の注意の後、私の頭の中は真っ白。

だって、私以外のクラスメートの皆はヴァンパイアで……。一歩間違ったら…、命は無くて………。

「まぁまぁ!そんな野蛮な子はいないから、大丈夫よね!…ではでは、皆さんお楽しみの自己紹介ターイム!」

綺麗な先生は、暗い雰囲気を変えるようにして明るい声を出すと黒板に綺麗な字で名前を書いた。

「私の名前は、伯一春人(タケモト ハルト)です。…ふふっ。皆、私の名前見てあることに気づいたかしら?」

伯一先生は、皆に微笑みかける。

…私が名前を見て思ったことは…。随分、男の人みたいなお名前ですね…。

と、私の考えを見透かしたかのように、伯一先生はニコッと笑う。

「そう、私、男なの!」

「「「えぇーー!!?」」」

伯一先生の衝撃的発言に、クラスの皆は大声を出した。

「ふふっ…。ビックリしたでしょ?…でも、本当の事よ。…ある事情があって、今は女の姿をしているけど、中身は普通に男よ」

伯一先生は、そう言って口元に手を当てて笑う。

お、男の人だったんですか…。とても、ビックリです…。

「あ、信じてないわね、男子。…後で、男子トイレに来なさいよ。見せてあげるから。……なんて、見せる訳ないでしょ」

伯一先生は、そう言って男子を指差してニコニコと笑った。

「まぁ、おふざけはここまでにして。…皆の自己紹介タイムよ。先生、楽しみだわ。じゃあ、出席番号一番から、どんどんやっちゃってー!」

伯一先生が椅子に座り教卓に、肘をかけて顎を乗せると、出席番号一番の男の子の名前を呼んだ。

意外と、自己紹介というものはどんどんと早く終わって、早くも私の番になってしまう。

ドクドクと鳴る心臓が、私の緊張を高める。心臓が口から出てきそう…。

み、…皆の視線が怖い…です…。

「……か…、神咲…ゆ…優です…。…よろしくお願いします…」

ブルブルと震える足を止めるように、大きな声で自己紹介をした。

パチパチ、と拍手が起きてから私はトスっと椅子に腰を降ろす。

き、緊張したー…。指が震えてます…。

「優、良い自己紹介じゃったの。とても微笑ましかったぞ」

王神君は、そう言うと私に向けて優しく微笑んでくれた。

その笑顔に私は少し安心したのか、全身の力が抜ける。

「……あ、ありがとうございます…」

ヘラッと力無く笑うと、王神君はまた顔を赤くした。

「……れ…、礼には…及ばぬ…。…も、もう自己紹介が終わったようじゃ」

「あ、…本当ですね」

そんな短いやり取りの間で、クラス全員の自己紹介は終わっていて。

「ん、結構皆適当だったけど、緊張してたのかしら?…ふふっ、しょうがないわよね。…では、早いけど帰りましょうか。…これから、一年間ダケだけど、皆よろしくね」

伯一先生が立ち上がると、皆も立ち上がる。

「じゃあ、襲わないように気をつけて帰ってね。…あ、神咲さんは襲われないように気をつけて帰ってね。…さようなら、また明日ね」

伯一先生は、挨拶をすると皆が教室から出るまで笑顔で手を振っていた。

私も、皆より遅れないように早足で教室から出た。

「………………」

お、襲わないように気をつけて帰ってね、なんて初めて聞きました…。しかも、襲われないように気をつけて帰ってね、とついでに言われた事も初めてです…。

「優!また明日、学校での!」

「…あ、はい!また明日」

教室から出ると、王神君が手をぶんぶんと振って挨拶をしてくれた。

私も返すように、笑顔で手を振る。

「あ、早く行かな……、………っ?!」

私が廊下を一人ぶらぶらと歩いていると、誰かに手首を引っ張られ、人気の少ない廊下の奥に連れてかれる。

私の手首を引っ張ったのは、裕君だった。

冷たい瞳に見つめられ、私の身体はビクッと震える。

「ひ…、裕く……いっ…」

「……優…」

ドンッと大きな音をたてて、私の名前を呼び肩を壁に押しつけてくる。

「………アイツ…、本当に危ない奴なんだけど…」

裕君は、いつもの明るい声とは真逆の暗くて怒りのこもった声で私に言う。

「………………」

私は、裕君の瞳が怖くて視線を下に逸らす。

「…目、逸らさないでちゃんと聞いて」

裕君が私の顎を無理矢理上にあげると、無表情で私の目を覗き込む。

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