私、ヴァンパイアの玩具になりました
「……ぃやっ……離し…て……下さ……ぃ……!!」

頭の中をグルグルさせていると、さっきの薫瑠さんを思い出した私の身体は、自分でも分かるくらいにブルブルと震えだす。

「…………………」

薫瑠さんが力を抜いた瞬間、私は震える足を無視して、扉まで走った。

扉のドアノブをガチャガチャと何度も捻る。

でも、ドアノブは私の期待を大きく裏切った。

…何度、捻っても扉が開く気配はなくて。

私はパニック状態になり、扉をドンドンと叩き、ドアノブを何度も何度も捻った。

その間もコツコツ──と、私にゆっくりと足音が近づいてくる。

シーンと一瞬、足音が止まると、次の瞬間、思い切り肩を引っ張られた。

「………俺から……逃げれるとでも…、思いましたか?」

ドンッと壁に私を押しつけ、手首をガッチリ掴むと、ニヤリと薫瑠さんは口角をあげた。

その顔は、凄い妖艶で。思わず、自分が置かれてる状況を忘れ、見とれてしまう程だった。

「…ぃ…たい……、痛い…です……!」

「……痛い?…当たり前でしょう?…痛くしてるんです…。……俺が感じた痛みを…、アナタにも教えてあげてるんですよ………?」

薫瑠さんはそう言いながら、手首を掴む力を強くさせていく。

ギリギリと肌と肌が擦れ合う音が部屋に小さく響いた。

「……ぃ………」

「…………傷…、増えてますね…?…誰に飲まれたんですか…………?」

薫瑠さんは、牙の形をした傷を太ももから、腕、腕から首を優しく触っていく。

「……き…気づいたら…、…増えてました………」

小さく震える声で、私は薫瑠さんの質問に嘘をついた。

「…………そんな嘘で俺が騙されるとでも?…バカじゃないですか?……俺が聞いてるのは、誰に飲まれたのか、です」

薫瑠さんは優しい笑顔で微笑んでいた。でも、目の奥が笑っていなくて、薫瑠さんの作っている優しい声が怖い。

「………………っ」

バレてる。…バレちゃった……。どうすれば…、言うの?裕君と愛希君に飲まれたって、言ったらどうなる?

…私が言ったら……、薫瑠さんは…裕君と愛希君の所に行くかもしれない…。

もし、薫瑠さんが裕君と愛希君の所へ行ったら…、どうなるか…、私の予想を越えることをするかもしれない…。

そんな私の考えを見透かしたかのように、薫瑠さんは鼻で笑った。

「そんなに俺が怖いですか?…そんなに俺が信用出来ませんか?……もし、言ったら、俺がその人たちの所へ行くかもしれない…とでも思っているんですか?」

「………………」

私は、もう隠し通せる自信がなくなり、弱々しく頷いた。

「ふふっ…。そんな事しませんよ?」

私の答えに薫瑠さんは口角をゆっくりあげると、肩を震わせて声を押し殺すかのように笑う。

「…………へ?」

予想外の答えに私は目を見開き、薫瑠さんの顔をジッと見てしまう。

……じゃあ、なんで…聞いてくるんですか…ね……?

私は薫瑠さんと無言で視線を交わらせていた。その後、最初に無言の空気を壊したのは薫瑠さんだった。

「……ただ………。…優の血を飲んだ挙げ句、こんな痛々しい傷を付けた奴らがムカついたので…。聞こうとしただけですよ…。………まぁ…、俺がどんなに聞いたとしても…アナタは口を開こうとはしませんけどね…?」

薫瑠さんは、ニコッと口は微笑んでいるけど。…目はお世辞にも笑っていると言えないほどに笑っていなかった。

「…………ご、ごめんなさい…」

それが怖くて、私は震える声で薫瑠さんに謝った。

「……俺、今日は頭がおかしいんです。…怯えてる優を見てると…。……凄い…、ゾクゾクと変な感情が沸き起こってくるんですよ…」

そう言って薫瑠さんは笑うと、私の髪の毛に指を通した。

サラッとゆっくりと落ちた髪の毛。首に少しかすれて、私の身体はぞわっと鳥肌が立った。
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