その一枚がくれたのは、勇気と恋でした
彼の名前は確か···


「和中翔吾君」


自分の名前を呼ばれただけで、彼は大声で怒鳴られたように背筋を伸ばして緊張した面持ちになった。



教室の隅から見ている彼は特に目立つような存在ではないが、私のように全く目立たないという存在でもない。

周りには常に誰かがいる印象だったが、こんなにも話下手だとは思わなかった。


「私だって、同じクラスの人の名前くらい知っているよ」


そう言いながら、彼が撮ったのであろう写真に私はまたしても視線を移してしまう。

写真に詳しくない私には、この写真の評価など分からない。

だけど、この写真には今の私にはない大事なものが伝わってくる。


「写真、好きなんだね。

凄くこの一枚からそれが伝わってくる」


「俺···

写真部だから。

文化祭で作品を出展するから、他にもまだたくさんあるよ」


私の言葉に彼の表情は一気に明るくなり、子供のような目で写真を眺め出した。


「じゃあ、他の写真もまた見せてよ」


これが私たちの夢のような二週間、高校生活最後の文化祭の始まりだった。
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