桜舞う
長刀
直之が来た日の夜は当然殿方はお酒を飲んでいた。
鈴姫は直之から逃げるように台所でつまみなどの準備をしていた。今回は上機嫌すぎて逆に恐い。いつもなら不機嫌そうにやってきては帰る、お前を連れ戻してやるなどと言い放ち、一月以内には本当に兵を挙げて離縁させていた。

鈴姫には直之が考えていることが全く分からない。まだ鈴姫が田畑を耕していた頃はなんとなく分かった。分からなくなったのは恐らく城主となってからだ。領土が拡大し大きく出世してからますます分からなくなった。
直之が明らかに変わったのは妻であり鈴姫の義姉の死が原因であることは、鈴姫にも分かっていた。しかし、離縁を繰り返すうちに直之を拒絶し、哀れむ気持ちも薄れていった。

「鈴姫様、これを殿方のところへお持ち下さい。」

切り出したのは松江であった。
鈴姫は松江から侍女たちが作った漬け物ののったお盆を持ち、重い足取りで殿方のところへ向かった。
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