契約妻ですが、とろとろに愛されてます
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玲子の話を聞き、三〇分後、病室へ行くと酸素マスクを着けた柚葉はまだ眠っていた。顔はまだ血の気が戻っていないように見える。


病室には美紀さんがひとりでいた。ベッド脇のイスに座っていたが俺が病室に入ると立ち上がった。


慎君はどうしても代わることが出来ないバイトがあり渋々帰ったそうだ。


「ありがとうございます。色々してくださって助かりました 私達だけでは頼りなくて……先生は何とおっしゃっていましたか?まだ目を覚まさないのは?」


まだ運び込まれてから一度も目を覚まさない柚葉を不安に思う気持ちは俺も同じだった。


「数時間は目を覚まさないと言っていました このたびは本当に申し訳ないことをしました。ケガをしたことがもっと早くわかっていれば……」


「今日、何があったか知りませんが、昨晩も柚葉の様子がおかしかったんです」


柚葉の寝顔を見ながら美紀さんはポツリ話した。


「おかしかった?」


昨晩、俺は柚葉にひどいことを言った。


「放心状態で家に帰ってきて、糸が切れたかのように眠ってしまったんです。きっと、あの時も具合が悪かったんだわ」


再び瞳が潤み始め、美紀さんはハンカチをあてる。


「……お……ねえ……ちゃん……」


掠れた声がした。柚葉を見ると目を開けていた。


「柚葉っ!気分は?」


美紀さんが柚葉を覗き込むようにして見る。


「私……」


どこにいるのかわからない様子に美紀さんは言った。


「病院よ 真宮さんの会社のロビーで倒れたの、覚えている?」


その途端、柚葉の顔が歪む。今にも泣きそうだ。だが、美紀さんの心配そうな顔を見て堪えている。柚葉から俺が見えていない。


「ごめん……ね……心配かけて……」


酸素吸入器をつけて話す声はこもって聞こえる。


「いいのよ どこか痛い?気分は?」


美紀さんの言葉に柚葉はゆっくり首を横に動かした。

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