スロウダンス
(相良部長だった・・・ の?)

つい少し前まで、森先輩と話していた人とあんなに急接近してしまったことにドギマギした。

相良部長は正木部長の横に座り、話始めた。

ぼーっと立ち尽くす、私。

ふと、入り口近くに座っていた総務部長が怪訝な表情でこちらを見ているのに気が付いた。

恥ずかしさで、顔がカーッと熱くなる。

誤魔化すように俯きながら、そそくさと空いたお茶を下げつつ、新しいお茶を差し出す。

そして、奥側に座る、正木部長と相良部長のところへ。

「藤曲さん、ありがとうね」

正木部長がねぎらいの言葉をくれる。

「あっ、いいえ・・・」

そんなやりとりをしていると、じっと隣に座る相良部長が見ているのに気が付いた。

目が合って、慌てて逸らす。

(出来れば、あまりこっちを見ないでほしい・・・)

相良部長は、近くで見ると、本当に綺麗な顔立ちをしていた。

でも綺麗すぎて緊張してしまう。

お近づきになれたとキャッキャ騒ぐと心境に程遠く、私は早くこの場を立ち去りたかった。

(うっうっ・・・イケメン、苦手だぁ。)

冷や汗かきながら、相良部長にもお茶を差し出すと、

器を見た相良部長が『フッ』と口のはし上げた。

しかし一瞬の事で、またすぐに無機質な表情に戻った。

その時、会議室のドアが開き、

「皆さん、遅れてすまなかったね!」

社長がゆったりと登場した。

私はちいさく会釈して、会議室を出る。

(ふーっ、緊張したぁ)

お盆を抱えて、給湯室で一息つく。

空いた容器を水洗いして、私は、午後の業務に戻った。

ーーーこの時までは、自分が今後どうなるかなんて思いもしなかった。

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