恋花火~あの日、言えなかったコトバ~

K SIDE(後編)

「カナ聞いたよ~、スカウトなんてすごいじゃん」

何気ない日常の朝、サヤカが嬉しそうにあたしに声を掛ける。

「そんな…何かの間違いだって。そもそもスカウトの人かどうかも怪しいし」

「名刺あるんでしょ?見せて見せて」

カバンの中に無造作に押し込んだ名刺を取り出してサヤカに見せてみる。あたし的には一緒にいたマイが見向きもされなかったのが不思議でしょうがないんだけど…

「Fプロダクション?聞いた事ないなあ」

「うん。調べてみたらね、どっちかっていうと女優とかアイドルよりミュージシャンとかグラビアに力入れてるところみたい」

「へー、そうなんだ。それでカナどっちにすんの?」
「…どっちって?」

「だ・か・ら、グラビアやるのかミュージシャンするのかって話!卒業したら芸能人になるんだよ?」

まるで自分がスカウトされたかのようにサヤカは舞い上がってる。あたし、そういうの興味ないんだけどなぁ…

「よーし、前祝いでカラオケいこっ。今日バイト休みだよね?」

「うん、休みだけどカラオケかぁ…」

実はこの日まであたしはどんなに誘われてもカラオケにだけは友達と行った事がなかった。
人前で歌うのが恥ずかしくてたまらなかったのだが、スカウトされた事があたしに自信を与えてくれた事もあり、ついにあたしはこの後学校帰りにカラオケに行くのを了承した。
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