嘘と微熱と甘い罠
クライアントはとっくに帰ったらしく、会議室には私と相良だけになっていた。
…しまった、出遅れた。
そう思ったときにはもう遅かった。
自らを落ち着かせるためにか、呆れているのか。
お腹の底から吐き出したため息とともに。
相良は言葉を発した。
「お前、やる気あんの?」
「な、によ…いきなり…」
「昨日は洗面所行くっつったまま戻ってこねぇし。今日は今日で上の空。なんなの、お前」
深々と眉間に刻まれたシワが、相良の機嫌を表している。
「だいたいこの案件だってお前がメインなんだからもっと口出せっつーんだ」
「黙って打ち合わせに参加って、入社したての新人かっつーの」
「案出してなんぼだろ?」
まるで機関銃。
次から次へと捲し立てるように言葉を投げつけてくる。
…相良が、仕事に厳しい人間だってことはよくわかってる。
それはそれ、これはこれと。
割りきらなきゃいけないってこともわかってる。
だけど…っ!!
「…の…」
「は?」
「…誰のせいだと、思ってんのよっ…!!」