嘘と微熱と甘い罠

「昨日は悪かったな」





私の頭にのせられたそれが。

笠原さんの手のひらだと気付くのに、時間はかからなかった。





「急な接待。こっちにも都合があるのにさ」





ハハッ、と小さな笑いを含みながら笠原さんは言葉を続ける。

…悪いなんて思ってないくせに。

それどころか接待だったのかすらあやしいのに。

私は笠原さんにとって都合のいい暇潰しだったんでしょ…?





「…いえ、いいんです」

「なんだよ、拗ねてんのか?らしくないな」





そう言いながらワシャワシャと頭を撫でる笠原さんは。

今、どんな顔をしているんだろうか。

さっきまで彼女と一緒にいたのに。

彼女と未来の話をしていたのに。

今、私の頭を撫でる笠原さんは。

何を考えて私に触れているんだろうか…。





「…で、ください…」

「え?」

「…触らないで、ください…」





私は膝を抱えたまま、笠原さんにそう言った。

瞬間、頭を撫でる笠原さんの手が止まった。




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