嘘と微熱と甘い罠
先輩と後輩
「…え?」
空調完備のされている病院の中とは違う。
自然の空気は少しモワッとしていて。
近づいてくる夏の空気を予想させた。
そんな空気の中。
入り口近くのベンチに座っている人を見つけて、私は目を疑った。
そこにいたのは、いつものスーツ姿じゃない。
私服の笠原さんだった。
なんで…?
なんで、笠原さんが…。
脳裏を横切ったのは。
階段から落ちていくときに見た歪んだ笠原さんの顔。
足が進まなくなり、背中には嫌な汗がツツッと走る。
ダメだ、会っちゃいけない。
頭じゃなくて、体が本能的に拒否をしてる。
…今ならまだ私に気付いてない。
病院の裏側から出てしまえばわからないはず…。
なんとか体を反転させようとしたそのとき。
「…天沢」
笠原さんは私に気付き、腰を上げ近づいてくる。
「…なに、して…」
「迎えに来た」
絞り出すように出した私の声は。
笠原さんの平然とした言葉に遮られた。