地上の天使
プロローグ
神様が居たら、願いたい事はたくさんある。それは誰しも考える事だ。こうなればいい、ああなればいいと、考える事は希望でもある。
しかし実際に願いを叶える事は幸せな事なのか、それは当の本人にしかわからない。
風の無い日であった。地上60階ビルの屋上に、空からゆっくりと少女が舞い降りた。背中には純白の翼を宿し、薄銀色のワンピースをまとっていた。コンクリートで固められた地に降り立った少女は意味あり気にあたりを見回した。
「ここが人間の世界か。」
そう言って少女は楽し気な笑顔を見せた。何か新しい事が始まりそうな時に、人が笑うのと同じである。
この異様な光景にであっても、人々は変わらぬ時を過ごしていた。なぜなら、空から舞い降りた少女を、誰も視覚で認識していなかったからだ。決して見えないわけではないが、純白の翼を出しているときには他人に知覚できないよう魔法がかけられていた。人間世界での混乱を避けるためである。彼女の存在は人の世界では幻だからだ。
「ふふ、このセリフ一度言ってみたかったのよね。」
「ニュゥ。」
少女の肩に乗った猫のような生物が鳴いて応えた。一見獣の姿だが、その実は天に住まう聖霊の一人である。地上に降りる上で違和感の無いように姿を変えていた。どうやら鳴き方からして少し緊張しているようだ。
ナーナは羽根をしまって、人の形となった。急に出現した少女に周囲の人間の中には少しだけ戸惑った者がいたが、すぐにガラス張りの扉から中へ入って行ってしまったため、彼らはそれ以上の追求はできなかった。
地上に溢れる人間達のために、天界よりナーナは使命を与えられた。人々の願いを叶え、幸せを与えるために。
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