君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】

4.練習と曲作り~裕先生の寄越した人~-理佳-


託実が私の病室に毎日顔を出すことがなくなった。

宗成先生や、時折、オリジナル曲の打ち合わせに顔を出してくれる
隆雪君から、ベースを買って必死に練習してるからって言うことは聞いてる。


ちゃんと託実のことを理解してるつもりなのに、
どうして寂しいって思っちゃうんだろう。


人の優しさをもう一度取り戻すことが出来た私は、
凄く凄く寂しがり屋で、昔みたいに我慢できなくなってるのかもしれない。


最近、体の調子は良くて暫くお休みしてた、
1階でのサロンコンサートも、冴香先生のピアノのレッスンも
受けれるようになった。


初めて……病気なりに、いろいろと制限があっても
充実してるなーって思えた、この年の秋。


夏の名残が激しい9月が過ぎ、
少しずつ秋の気配が強くなってきた10月へと季節は変わっていった。


携帯を握りしめては、何度も託実の名前を電話帳から呼び出す。

だけど発信ボタンを押すことが出来ずに、。
電話を切る時間が過ぎた。


リアルは凄く充実してるのに、嬉しいのに
心だけは、夏に比べてすっぽりと空間が出来てしまったみたいで……。



その朝、裕先生からのメールが夜中に入ってたことを知った。


*

理佳ちゃん

元気してるかな?
明日、理佳ちゃんの病室に、
この間話したお客さんがいくと思うから待ってて。






*




忙しいからなのか用件を告げるだけのメールだったけど、
託実と託実の関係者・隆雪君に美加さん。

それ以外の人が病室に来ることに対してちょっと緊張した。



朝の診察時間。


宗成先生は、今日もお遊戯室に行くことを許可してくれた。

朝食後、少し休んで10時から11時まではお遊戯室。

10時半から11時が、冴香先生のレッスン。

その後、お昼ご飯と休憩を挟んで、
14時に裕先生から連絡のあった来客が来ることを教えてくれた。



殆どベッドから動けなかった時間。
まだ動けるのに、全てに悲観してベッドで眠ることを選んでた私。
全てから逃げ出すように、我儘を言ってた私。



私が嫌いな沢山の私を思い出しながら、
何時もはずっと嫌だった。



早く時が終わればってそればかりを思ってたけど、
冴香先生と出逢って、留まってみたいと思えた。

裕先生と出逢って、この手に縋りたいと思った。


そして……託実に出逢って、
もう少し、この世界で私らしく頑張ってみたいって
そう思わせてくれた。



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