君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


「理佳ちゃん……前々から気になってた。
 親として関わるべきじゃないのかも知れないけど、
 託実がストレスになってないかい?

 理佳ちゃんの体にはストレスは禁物なんだけどな」


布団の中でゆっくりと深呼吸を繰り返して、
少し不整脈がおさまったところで、首を横に振った。



「託実くんがストレスって言うのとは違うと思うの。
 私が弱くなっただけ。

 今までは誰も来なかったから、耐えられた。
 全てを諦めてたから。

 でも託実くんと出逢って、希望を……光を掴ませて貰ったから
 だから忘れてた寂しさ、思い出しちゃった。

 託実くんは託実くんで、忙しいのはわかってる。

 この間、宝珠さんたちと外出させて貰ったとき、スタジオの前で会えたんだ。
 会えたのに会話できなかった。

 託実くん、すぐに建物の中に走って行っちゃったの。

 その3日後くらい、携帯にメールが入ってた。

 『先輩に無理難題な課題出されたから、今は課題に集中する』って。

 だから私も……集中しようと思ったの。

 私が任されてる作業に。
 それが今の私が精一杯出来ることだから。

 だけど……気が付いたら、不整脈が出そうになったり、出ちゃったり。
 でもそれを言ったら、ピアノも触らせて貰えなくなりそうで怖くて黙ってた」




宗成先生の前だから素直に話せる?



それとも……託実くんに合わせてほしいから、
わざと、ストレスの原因が託実くんだって強調して、
何かして貰おうと期待してる?

自分の心なのに、その辺りのことは自分でもわからなくて
ただ……ありのままの気持ちを誰かに吐き出したかっただけなのかな?



思ってたことを吐き出すのと同時に、
涙が止まらなくなって、呼吸がやりづらくなって……
自分の制御が出来なくて、薬で眠らされるように意識が遠のいた。




その後、4日間ほどはまたベッドから動くことを許して貰えない時間が過ぎた。



「理佳さん、加減はどう?」


そう言いながら顔を出すのは、打ち合わせがてら気にかけてくれる隆雪君。


「ごめんね。4日間も作業止まっちゃって」

「主治医のストップがかかった時は無理はしてほしくないから。
 理佳さんの負担にならない範囲で。

 学校で託実、頑張ってた。
 アイツ、今回の学院祭を仕切る実行委員会のメンバーに選ばれたんだ。

 会議にベースに必死に毎日やってるよ。
 だから学院祭終わるまで、アイツのこと待ってやってよ。

 託実、昔から器用じゃないからさ」



こんな風に、隆雪君は病室を訪ねてきては
託実の忙しさを強調して、
その後には私の知らない学校生活を送る託実のことを教えてくれる。 
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