君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】

朝からびっくりすることだらけで、こんなメンバーと行動をともにしながら
私の学院祭は幕を開けた。

裕先生はこの学校にとっては、凄く凄く偉い人なのか、擦れ違うたびに膝を折りながら
挨拶をしていく生徒たち。

そんな人に車椅子を押して貰う私は、注目のまとで……それでも、
その人たちが興味本位に私をはやし立てることはない。



「どうぞごゆるりと、学院祭を……」



次々にそんな声をかけられて、過ぎていく生徒たち。
キョトンとしてたら、背後から「理佳ー」っと私を呼ぶ聞きなれた声が聴こえた。



「何不思議そうな顔してんだよ」

「おはよう、託実」

「おはよう。
 裕兄さん、少しだけ理佳連れてっていいか?

 今から俺のクラスまで。
 女子と合同で、お茶してるんたよなー」


そう言いながら託実は、
裕先生と入れ替わって私の車椅子を押してくれる。

次々と膝を折って挨拶をしていく、この学校の独特の習慣に圧倒されながら
私たちは、エレベーターに乗り込んで三階へと到着した。


「理佳、この橋が悧羅校の男子校舎と女子校舎を繋ぐ天の川。
 この学校ってさ、共学をうたってる割に、校舎は別なんだぜ。
 酷い話だろ」


そんな話もしながら、初めて見る学校の中を託実は面白く説明してくれた。


「ねぇ、さっきから……どうして、いろんな生徒さんたちが不思議な挨拶をするの?
 裕先生は偉い人?」


純粋な疑問。


「理佳ちゃん、そんなこと気にしなくていいよ。
 私は偉くもなんともない。
 ただつい最近まで、この学院内の生徒総会と言われる組織に選ばれていただけです。
この学院の生徒にとっては、生徒総会と言う役職は特別の意味を持つのです。
 ただそれだけですよ」

そんな風に裕先生は話すけど、託実はイライラしてるのかちょっと車椅子を押す速度が早くなってる?

違うの?
やっぱり……偉いの?


「さてっと到着」


教室の一角に作られた幾つも作られた茶室っぽい入口。


「おーい、特待頼むよー」


そう言いながら託実は、車椅子を御茶室の小さな入口の前に横付けした。

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