君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「お姉ちゃんには逢えないの。
お姉ちゃんには逢わないって決めたの。
最初はずっと寂しかった。
私の傍には、お父さんもお母さんも居なくて私はずっと一人で
お姉ちゃんに全部取られたって思ってた。
だけど……それでも理佳は、私のお姉ちゃんだもの。
私だって何度も、病院には来てた。
でも逢えなかったの。
その場所で、お姉ちゃんがどんなふうに過ごしてたか知ったから。
わかったから。
だからね……お姉ちゃんに長く生きて欲しくて、
私は神様にお願いしたの。
百は、お父さんもお母さんも諦めるから、
お姉ちゃんにあげるから、お姉ちゃんを助けてって。
お姉ちゃんが元気になるなら、百はお姉ちゃんにも会わないからって。
大切なもの全部で、神様にお願いしたの。
そんな私の気も知らないで、勝手なこと言わないでよっ!」
女の子の悲痛な声が、一階のエントランスに響いて
その子は突然、崩れ落ちるように倒れた。
慌ててソイツを抱きかかえて、理佳の病室の方までかけ戻ると
抱えた女の子を、近くに居た看護師さんに預ける。
そして、人工補助心臓を取り除いた……綺麗に化粧もされた理佳と
俺はゆっくりと対面した。
そこには連絡を受けて駆けつけたらしい、姫龍叔母さんの姿もあって
ベッドで眠っている理佳は、綺麗な着物を着てた。
そのまま理佳をのせたストレッチャーは、
皆に見送られながら、一階の霊安室へと移動させられる。
その場所で迎えに来た車に乗せられる理佳を見送って、
俺も肩を落としながら家へと帰った。
今も……理佳が死んだなんて言う実感は持てないまま。
翌朝、理佳の両親から俺に伝えてほしいと
アイツのお通夜と告別式の連絡が届いた。
何も気力が得られなくてただベッドで燻っていた俺は、
隆雪の携帯を呼び出して、アイツが旅立ったことを告げた。