君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
次に目が覚めた時には、
裕先生は外国に出かけた後みたいで、
もうこの場所にはいなかった。
……今度、何時帰ってくるんだろう……。
思わず呟いてしまう言葉。
「おはよう、理佳ちゃん。
調子はどう?」
朝の様子を確認しに顔を出した、
宗成先生は診察の後、酸素マスクを外してくれた。
「これで少しすっきりしただろ。
今日は午前中は安静。
午後から、オペ前に少し顔を出すからその時に調子が良かったら、
遊戯室で練習するのもいいだろう。
30分がタイムリミットだけどね」
30分。
僅かそれだけの時間でも、もう一度ピアノに触れてもいいって
教えてくれた、宗成先生の言葉が嬉しかった。
何時死んでもいい。
死は罪からの解放で私の罰が終わりを迎える時。
そう思ってるはずなのに、
それでもピアノに執着してしまう私自身。
矛盾してるよ……。
だけど……ピアノだけが、
今の私を人間らしくしてくれるそんな存在だから。
だから……こんなにも体調が崩れた後でも、
30分だけでも、ピアノに触れていいって許可をくれた
その言葉が凄く嬉しかったんだ。
涙があふれ出すほどに……。