唇が、覚えてるから

「もうここで大丈夫。わざわざ送ってくれてありがとう」


私は足を止めた。


「……」


祐樹も同じように足を止めたけど、口を閉ざしているのは変わらず。

一点を見つめたまま何かを考えているように見えた。


「どうしたの……?」


不思議に思って祐樹の前に回り込んだ瞬間。


「琴羽になんか出会わなければよかった」

………。


独り言のように呟いた祐樹の言葉に、周りの雑音が消えた。

いま、なんて……?


「……え?なに?よく聞こえなかったけど…」


乾いた自分の声が闇に落ちる。


聞こえた……けど。

まさか、冗談だよね?


“出会わなければよかった”


なんて。



「だから、出会わなければ良かったっつってんの」


聞き返した私に、祐樹は大きく息を吐いてから一気に言った。
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