唇が、覚えてるから

───そして翌日。

中山さんが、急変した。


医師たちが処置に懸命な中、私も中山さんの担当として、病室の端で祈るような思いでいた。

最期を見届ける。

これも、実習だから。


中山さんのお兄さんと、その奥さんが見守るベッドの脇。


「あっ……」


思わず私は声を上げてしまった。


……見えたんだ。

ベッドの脇に寄り添って、中山さんの手をしっかり握っている祐樹が……。
< 212 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop