唇が、覚えてるから

「……そうね……。あなた見てると自信がつくし」

「えっ…それってどういこと?」


それも本気で分からなくて首をかしげていると


「そのまんまの意味よ」


矢部さんが笑った。

それは、いつもの緊張が解けた、初めて見る矢部さんのあどけない笑顔。


……なぁーんだあ。

矢部さんだって同じ高校生。

こんな風に笑えるんだ。

なんだか、嬉しかった。


「あなたもうちょっと勉強してよね。実習生として同じに見られたくないし」


言葉はどうであれ、いつのもの冷ややかな瞳は、もうなかった。


「うんっ、一緒に頑張ろう!」


夏の空の下。

ちょっとだけ、女の友情が芽生えた気がした。
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