唇が、覚えてるから

「触らないでっ!」


一瞬目の前が見えなくなった。


……えっ…。

首筋から流れていく冷たいものに、顔面に水をぶちまけられたことを知った。


驚くままに瞬きをして。

再び開けた視界には、空のコップを手にしたものすごい形相の中山さんが映った。

温度の管理されたこの部屋で、吹き出すような汗をかいている。

そして大声で何かを言いながら、暴れ出したのだ。


「中山さんっ!」


橋本さんがナースコールを押しながら中山さんの体を押さえているその横で、足が震えて動けない私。

すぐに別の看護師さんが駆けつけて、中山さんに点滴の処置が施された。
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