①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『真実の殻』

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 事態は、恐らく最悪の方向へと向かっている。
 
 間に合うといいのだが。

 今回の対象は、考えていたよりも遥かに強力で厄介なモノだった。方法も、選択も、何一つ間違ってはいない。それを全て上から、奴の存在が踏み潰しにかかってきた。高名な霊媒師の数々がこの依頼を拒絶したのも、なるほど頷ける。

 ――もはや、これは『災害』だ。

  三時間程前に、岡田玲二からのメールが届いた。電波の不具合で通話ができないためだろう。こちらの携帯は送信もままならない状態だ。


『媒体の正体がわかっ た。あれは「夕浬の臍の緒」だった。あの黒い女は焼け死んだ夕浬の母親だ。俺達は今北西の沼の近くにある廃寺に向かっている。このメールを読んだならすぐ に連絡をくれ』。


 廃寺。恐らくは場所の性質として奴に見つかりにくい地を選んで隠れるつもりなのだろう。たしかに、そうすればいくらかの時間は稼げるかもしれない。瑞町夕浬の祖母の入れ知恵だろうか。『媒体』は恐らく実家に置き、ダミーにしているはずだ。

 メールを受けてから急いで引き返し、北西の寺へと向っているが、『妨害』に遭い、膨大な時間がかかってしまった。雨が弱まっていることだけが不幸中の幸いだ。


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 あの時、二手に別れてから僕は麓の墓地を目指し、山道を一時間程かけて進みその中から瑞町――いや、浅神夕浬の母、浅神箕輪の墓の前までやってきた。


  およそ普通の人間にとって、最後にこの世に所縁を残す場所は自身の『墓標』。一般的な火葬の場合は自身の肉体だったモノ。
『骨』がこの場合の『媒体』だろう。


 ――偏見を恐れずに僕に言わせるなら、留まってこそいなくてもそこに本体とは別に思念は残り、小さな地縛霊となる。善意、悪意に関係なく、それが『墓』の 意義でありあちら側とこちら側を繋ぐものだ。

 つまり、その者の墓が墓としての役割を全うしていないから、こちら側へと、そして思念の執着する場所へと向 かってしまうわけだ。

 これを確かめる為に、僕は浅神箕輪の墓に訪れた。
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