① 憑き物落とし~『怨炎繋系』~
 今は不利な条件が多い。

 あとひとつ。

 なにかひとつ。

 小さなピースが揃えば全貌が見えてくるはずなのだが。

 『媒体』を捨ててまで標的そのものに執着するこの怨念は、酷く執拗に、しかも存在の全てかけて殺戮にきている。ここまで強大なヒトの思念は経験したことがない。この状況で奴に見つかったなら。

 ――そのときは、まず間違いなく、僕も殺されるだろうな。

 まあ、いい。そんなことよりも真相が肝要だ。

 それさえわかれば打開できる。僕の麻痺した脳では恐怖らしい感情も感じない。

 互いに存在をかけているんだ。今はリスクよりリターンを考えるべきだろう。


「やってくれるな」


  元来た道が、消えていた。

 大量の土砂が、鯨の群れのように道を塞いでいる。タイミングが良すぎる。

 明らかに意図的に妨害を施したなよく見ると何本か、燃 えた跡のある木々が倒れている。この雨の中、この燃え方。大木ごと焼いて崩壊させてこの道を崩したのか。

 もはや『人』というものから派生した存在とは思えない仕業だ。浅神の血統が特殊な背景の一族であることも要因なのかもしれないが、引力を持ちながら溜め込み、内包する穢れが桁違いに濃い。

 ――奴の存在そのものが『災害』だ。


「しかし、こうなるといよいよだな」


 僕達は奴から隠れなくてはならない、が、この土地に訪れた時から監視されていたのだろう。こうして考えてみると『媒体』を捨てたのも、僕という正体不明の脅威を分断させやすくするため。

 僕は土砂を迂回しながら道を下っていく。今は急ぐしかない。そうしながら、同時進行で考え続けるしか道はない。途中何度か足を踏み外し、背中と腕を打撲したようだったが、転げ落ちた分、距離を短縮できたということにしておく。

 今は、何をおいても逃げるしか生き延びる方法はない。

 ――しかし、飛び込んできた光景に絶句を余儀なくされた。

 廃寺から、火の手が上がっている。

 真っ黒な炎と、血潮のように緋い炎が絡み合いながら寺を蝕んでいる。


 間に合わなかったか……。

 
 諦めかけた僕の耳に、男の雄叫びが聞こえてきた。

 まだ、中で二人は生きている。僕は燃え盛る寺の中へと駆け込み、突き当りの小部屋へと直進した。

 そこから、狂ったような男の咆哮が響いてくる。明らかに常軌を逸しているが、岡田怜二の声だということはすぐにわかった。


 この先だ。扉に手をかけ、一気に 開く。

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