愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(22)涙のプロポーズ
「な……んだ、奈那子か。ビックリさせんなよ。携帯で起こしちまったか?」

「茜さんっておっしゃるんですね。何か困っておいでなんでしょう? どうぞ、行ってあげてください。わたしのことなら、気になさらないで」


まるで浮気がバレた気分だった。太一郎の胸は早鐘を打ち始める。


「い、や、だから……そうじゃ、なくて……それは、あの」


言葉もしどろもどろだ。   

逆に奈那子は静かな微笑みを浮かべたまま、悟りきったような声だった。


「ずっと考えていました、太一郎さんには好きな方がいらっしゃるんじゃないか、と。ごめんなさい……わたしがあなたに甘えてしまったせいで、茜さんに辛い思いをさせていたのでしょうね。一年前の約束を気になさっているなら、もうお忘れください。元々は、わたしがひとりでどうにかしなければいけないことです。これ以上、あなたを」

「いい加減にしろよっ!」


茜に惹かれる気持ちはあった。

理由もわかっている。

茜は太一郎の過去の悪行込みで笑い飛ばしてくれる。後ろめたい思いをせずに、茜とは笑い合えるのだ。


だが奈那子は……。


太一郎は、奈那子の視線が怖かった。

真正面からみつめることができないほど、太一郎は怯えていた。


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