愛を教えて ―輪廻― （第一章 奈那子編）
その隙をつかれたように、足をかけられ……今度は避けきれず、太一郎は地面に手をついた。

同時に腹を蹴り上げられる。いくら少年とはいえ四人相手では、一旦転がされると立ち上がることもできない。太一郎は頭を庇って丸まった。

足や背中に痛みが走る。だが、腕っ節はなくても、頑丈なのは取り柄だ。大きな怪我をする前に、誰かが通りかかってくれることを願っていた。


狭い路地とはいえ、駅にもほど近い。夜の十時を回ってはいるが、帰宅途中の会社員がひとりやふたり通ってもよさそうな場所である。

現に、横になった太一郎にも、駅前の通りから路地に入ろうとする足が何本か見えた。

ところが、喧嘩沙汰に巻き込まれるのを恐れてか、誰もが立ち止まったあと、引き返してしまう。


そのとき、不意に蹴りが止まり、


「残念ねぇ、太一郎くぅん。だぁれも助けちゃくれないわ。あたしをメスブタ呼ばわりするからよ。ちゃーんと反省するのね」


クスクス笑う郁美の声が真上から聞こえる。


太一郎は、


「馬鹿じゃねぇーか？　俺をぶちのめしても、テメェは所詮、ババァのメスブタだ。ブタ小屋が似合いだよ」


わずかに身体を起こしながら、郁美に向かって吐き捨てた。


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