愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
相手は郁美だ。

彼女に桐生や泉沢の名前を聞いただけで、すぐに政治家を思い浮かべる教養があるとは思えない。

それをわざわざ知らせてやるなど……。


混乱する太一郎の前で、卓巳は小切手帳を取り出し、さらさらと金額を書いた。直筆だとわかるサインをし、一枚破って郁美に渡す。


「換金は三ヶ月後だ。それ以前に、銀行には持ち込まないように。君の誠意を信じて日付は入れないでおこう。そして、マスコミに持ち込むこともなし、だ。たった三ヶ月――それで、君は生涯遊んで暮らせる金が手に入る」


そんな言葉と共に、卓巳はアルカイックスマイルを浮かべた。


そのわずか数分後、喜び勇んで走り去るロードスターを見送りつつ……太一郎は忌々しそうな声を上げた。


「なあ卓巳……お前って、あの手の女が大っ嫌いじゃなかったか?」

「ああ、反吐が出る」

「じゃあなんであんな金をやるんだ? しかも桐生や泉沢の正体まで教えて……」


そこまで言ったとき、太一郎の表情が変わった。


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