愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
だがそのとき、


『――骨は拾ってやる。しっかりやれ』


ほんの数分前に耳にした声が、太一郎の頭に響いた。


太一郎は深く息を吸うと、背中を向けた桐生老にもう一度声をかけたのである。


「待てよ、爺さん」


かなり擦り切れた畳を両足でしっかりと踏み締め、太一郎は立ち上がった。

シャツの第一ボタンを外すと、少しだけネクタイを弛める。


「桐生に相応しいってなんだよ。そう言って選んだ娘婿が、ひとり娘の奈那子を利権漁りの道具にしたんじゃねぇか! あいつが俺なんかに惹かれたのは、俺と同じだったからだ。誰もが“お前のため”と言って、結局、自分のことしか考えてないからだよ!」

「だからお前も、奈那子の想いを利用して身体を弄んだ、と。孕ませて捨てた言い訳か?」

「ああ、そうだ! でも、俺が赦しを請うのは奈那子であって、あんたじゃない。奈那子は俺を信じると言ってくれた。あんたも祖父さんなら、桐生じゃなくて、奈那子の幸せを考えてやれよ。俺は、あんたに『要らん』と言われたくらいで引くわけにはいかねぇんだ!」


卓巳のような器用なやり取りはできない。

言葉を選び、腹に三つ四つ抱えたような……そんな、知恵もなければ機転も利かない。説得と言えるのかどうかはわからないが、真正面から言葉をぶつける以外に手段のない太一郎である。


そのとき、桐生老はクルリと振り返った。

その形相はまさに“妖怪”の如く、薄い瞳で太一郎を睨みつけ……。


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