愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
【番外編】

―ある女の末路―

(たった三ヶ月が……なんて長いのかしらっ)


三ヶ月はおろか一ヶ月を過ぎたばかりの九月末。

ジリジリ続く残暑と同様に、名村郁美は苛々しながら毎日を過ごしていた。


八月末、太一郎は名村クリーンサービスを正式に退職し、あのアパートも引っ越して行った。一緒に住んでいた女と入籍したと聞く。

お腹の子供の父親は、マスコミで騒がれていたなんとかという大臣の息子。週刊誌にネタは売りたかったが……。


(まずは、この小切手をお金に替えなきゃね)


都内は厳しいが、地方に行けばマンションくらい楽に購入できる。新しい車も買いたい。残ったお金で商売も始められる計算だ。

名村の財産も惜しいが、全部合わせてもこの金額の半分にもいかないだろう。

しかも、妻の取り分はその半分。等を上手く焚き付ければ、もう少しは増えるかもしれない。でもそれは、平均寿命を考えたら十年以上先なのだ。


(冗談でしょ。そんなに待ってたら、五十近くになっちゃうじゃない)


今度は水商売じゃなくブティックでも始めよう。郁美はこれまでの不行状を棚に上げ、薔薇色の未来を想像していた。


< 235 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop