愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「ねえ坊や、いい子ちゃんも過ぎるとお仕置きしちゃうわよ」


郁美は太一郎のほうに身を乗り出すと、付け爪を引っかけないように、器用にバックルを外した。


「この車で本番は無理なのよねぇ~。でも……これ以上逆らうなら、あたしは服を引き裂いて外に飛び出すわよ。『きゃーたすけてぇー襲われるぅー』ってね。だいぶ、ココも硬くなってるみたいだし……今度は言い逃れることができるかしら?」

「……いい加減にしやがれ」

「なんですって?」

「汚ねぇ手で触ってんじゃねぇぞ、ババアが! 俺はお前みたいな売女(ばいた)は、むしずが走るんだよ!」

「あ……あたしに、そんな口を聞いて……」


太一郎のあまりの変わり様に、さすがの郁美も一瞬たじろいだ。


そして郁美の身体が離れた瞬間、太一郎は右手で彼女の髪を掴み、運転席のシートに押し付ける。

左手は親指と人差し指で彼女の頬を挟んだ。


「調べたんならわかるだろ? 俺は“いい子ちゃん”じゃねぇ! てめぇみたいなメス豚は喰い飽きてんだよ。――いいか、俺や奈那子に関わるな。どうあっても地獄に落とすつもりなら、てめえも引き摺り込むぜ」


郁美は太一郎を追い詰め過ぎたのだ。

元々が、弱さを隠すために吼えていた男である。窮地に陥れば、再び、狂気に満ちた牙を剥きかねない太一郎であった。 


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