愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「ちょっと! やめてよ」

「ああ、悪ぃ悪ぃ……足が滑った」

「太一郎! どうして何にも言わないのっ!」


太一郎に駆け寄ろうとする茜の腕を、北脇が掴んで言った。


「お前さ、うちの学生じゃないよな? コイツの女か?」

「違う!」


答えたのは太一郎だ。


「そいつは藤原家の使用人だ。社長夫人のお気に入りで、俺の見張りみたいなもんだよ」

「違うわ、私は……」

「うるせぇ! お前が騒ぐからバレたんだろうがっ! 二度と俺の前をチョロチョロすんな……今度こそ犯すぞ!」


茜の目は一瞬で怯えた色に染まった。


「そんなこと……万里子様に言うわよ。い、いわれたら……困るくせに」


太一郎は立ち上がり、茜の前まで行くといきなりTシャツの襟首を掴んだ。そのまま引き摺るように、男子トイレから廊下に突き飛ばす。


「こいつらにバレたのはお前のせいだ! 今度来やがったら、便所の中に引き摺り込んでヤッちまうぞ。――忘れんなっ!!」


壁に肩をぶつけたのか、茜は痛そうにしている。それ以上に、殴られたときのことを思い出したのだろう。太一郎の顔を見ることもせず、茜は走り去った。


(二度と来るな……頼むから……来るな)


この日から、執拗な北脇の嫌がらせが始まった。


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