深淵に棲む魚


「こりゃたまげた。上だけ見てりゃ、ほんまもんの女みてぇだ」

「うちの母ちゃんよりべっぴんだ」

「んでも、すこーし顔つきが人でねぇ」

「そりゃ化けもんだかんな」


 微動だにしない人魚に安心したのか、漁師たちは、人魚の肌を突つきげらげら笑った。



「それにしても、あんたは凄いな」

「これでわしらも屋形船の奴らも、気兼ねせんと仕事ができる」



「それで、お礼の方はいかほどで?」

 年長らしき白ひげを蓄えた漁師が尋ねると、皆が一斉にぎらりと目を光らせ烏帽子の男を注視した。



 男は彼らを射抜くように見返し、また首を振った。





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