背龍綺譚(せりゅうきたん)改
綺譚 弐 縁の下の…

朝、起き抜けの砦は充に呼ばれる。

「おはよう…大ママ…どうかしたの?」

充は遮光瓶に入ったオイルを渡す。
「仁龔が寝込んでる…」

「そういえば…この前、井戸からの帰りにも辛そうだった」

「詳しい事は後で話すから…先に香油を持って行っておやり」

ノックもそこそこに、ゆっくりと部屋のドアを開ける。
「仁龔?入るよ?」
ベッドに横たわる仁留は寝息をたてていた。

(良く寝てて起せないな…)

そんな事を思いながら寝顔を見ていた砦だが、充が持たせた遮光瓶の中身が気になった…。

気になった…と…言うか、中身は何か分かっているのだが…。

瓶のフタを開けると懐かしい香りがする…。
子供の頃…仁龔や砦が熱を出すと決って
調合してくれた香油。
胸元や背中に塗って貰うと呼吸が楽になる。

「…?とりで?」
いつもより眉間にシワを寄せた仁龔が覚
醒し、瞬きをする。

「あのね…これ…大ママから…」

「懐かしいな…柚子とハッカと…秘密の何か…」
仁龔が口許だけで笑う。

「じゃあ…背中…」

「背中?」

「そう…出して…塗ってあげるから」

「胸元と喉にだけに自分で塗るから…いい…」
瓶の蓋を緩める砦を止める。
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