背龍綺譚(せりゅうきたん)改
「本殿なら裏になるけど。合格祈願の方?」
マスクを外しながら女性は言う。

「…周(あまね)ちゃん?」

「そうだけど…誰?」
メガネも外すと、白い肌が黒髪に映える美しい顔が見える。

「アタシ、砦だよ。大ママの所の…」

「砦!本当に?帰って来たの?」
周は再会を喜ぶ。

「夏休みだから…大ママと仁龔の手伝いしてるの」

「わかった!書物の返却と続き取りに来たんだ?」

「うん」

「入って…今、書物の虫干ししててさ…巻数通りに並んでないけど…」
雨戸を開け空気を入れ替え、忙しそうに作業する周に促され、書庫の中に入る。

「この書物の山は?」

「ああ…白紙なの…何でこんなの保存してあるのか、おじいちゃんに聞こうと思って」
乱雑に積み上げられた書は軽く20冊を超えている。

「大ママが借りてた分は何処に?」

「あ…貸して…この棚で良いと思うけど…」
周は受け取るとパラパラと中を確かめる。

「ねぇ…これ…充さんが読んでたんだよね?」

「読んでたよ…続きを借りて来て…って事だし」

「う…ん…」
煮え切らない返事の周の横に行き、砦も覗き込む。

「白紙?」

「うん…」
二人は顔を見合す。

「今までに、こんな事は無いと思うけど…」
周は棚に並ぶ書物を手に取るとランダムに頁を開く。

「文字が消える…」
なす術など分からず、サラサラと消えて
いく様子を二人は見つめる。
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