神様修行はじめます! 其の三
突然、目の前に白以外の色彩が浮かんできた。


それに目を奪われあたしは足を止める。


なんだろう・・・あぁ、あれは・・・


雛型、だ。


そこに雛形が居た。


雛型が、凄まじい吹雪の中を風に吹かれて立ち尽くしていた。


なぜかこの広大な空間の中で、彼女の周りにだけ猛吹雪が吹いている。


長い黒髪と朱色の衣装が風雪に煽られ、激しく乱れて舞っていた。


そしてその足元に・・・


半分、雪に体が埋もれてしまった状態で誰かが倒れていた。


雛形は、荒れ狂う空を呆然と見上げている。


両目から滂沱の涙を流し、混乱と、極限に満ちた顔で、天から降る悪魔のような雪を見つめている。


祈るように何かに懇願する目には、狂気の光が垣間見えた。


これは、この光景は・・・


雛型が、選択した瞬間だ。


世界よりも夫の命を救う選択をした、運命の一瞬だ。


この世界にとって、そして雛型にとっての運命の時間。


まるで一枚の絵のように、その光景は純然とそこに存在していた。


し続けていた。


そこから、時間が進まない。


この空間は雛型が決意した瞬間から、一秒たりとも時間が進もうとも戻ろうともしていない。


絶望と極限と、狂気を湛えた表情のまま、雛型は永遠と立ち尽くし続けていた。


自分が決断した瞬間を、世界の破滅を選んだその時を。


永い永い長い時間、ずっと、雛形は・・・


千年、ここで思い知り続けていたのか。


罪を償いながら・・・・・


己を責め続け、泣き続けて。


絶え間なく流れ続ける雛型の涙を見るあたしの目にも、涙が浮かんだ。

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