神様修行はじめます! 其の三
「大丈夫、危険物じゃないから。すっごく美味しいんだよ。ひとくち食べたら、もう病みつき間違いなし」


ある意味、そこが危険物といえるかもね。


ふたりの目の前で竹川の包みを開くと・・・。


「・・・あちゃあぁ~」


おにぎりは見事に変形していた。


無理ないか。あれからずっと空を飛んだり、落っこちたり、過酷な動作の連発だったもんねぇ。


そんな中で文句も言わずに、よく耐え忍んだもんだよ。さすが権田原の梅干おにぎりだ。


「あ、ぼくも持ってます。おにぎり」


凍雨君が隣に来てゴソゴソと包みを取り出し、広げた。


でも彼のおにぎりも当然、似たような惨状で。


あたしと彼は顔を見合わせ、苦笑いしてしまった。


「これじゃ食欲失せちゃいますね。数も少ないし」


「でもきっと美味しいよ。分け合えば子ども達には行き渡るんじゃないかな?」


「そうですね。小さい子がお腹を空かせている姿は、ぼくも見ていて辛いです」


実感のこもった凍雨くんの言葉を聞いた端境の術師たちは、全員くるりと背中を向けた。


見ない振り、してくれてるんだ。・・・ありがと。


女の子が無心に小さな手を伸ばし、受け取ったおにぎりをパクリと頬張った。


可愛いホッペがムグムグと、一心不乱に動いている。


食べて、この世界を生きていくために。


その姿を見た母親が、無言であたし達に頭を下げた。


すると堰を切ったように次々と子ども達の手が伸びてきて、あたしと凍雨くんは、少しずつおにぎりを分け与えた。


若い命たちが、生きていくために必死に食べている。

それを母親達が、愛しげに見守っている。

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