ホテル
●ごめん

   ●ごめん


無言のまま……ウチは、鏡張りの天井を見つめていた。


鏡の中にいる……先輩とウチの体。



横に先輩がいて、肌が引っ付いていて、体温を感じる………。


こんなに近くにいて、手の届かない遠い人。


先輩、今な……何考えてんの?


先輩、今な……先輩の心はどこにあるの?



と……ウチの心の声が聞こえたのか……タバコをもみ消した先輩が、こっちに向きを変えた。


「初めてやったんか?」


ウチは、正直にコクリと頷いた。



先輩の瞳の中に、ウチが映ってるよ。


ウチの瞳ん中にも、先輩がいてるやろ?



その時……先輩から出た言葉は……


「ごめんな……」



  ?何でなん?


謝られると、辛いものがあるよ。


何で? 何に対して謝ってるん?


ウチは、悪い事されたやなんて……思ってないから………。


例え、数分の時間でもな………ウチに真剣に向いてくれたことは、死ぬほど幸せなことやから…………。



と……先輩は……ベッドから抜け出た………
どこ行くん?



   バスルーム?




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