羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



1


 すこしの間だが、友達ができた。

 クラスとも馴染めた。

 孤立している、という自分の陰気な印象を消すことができた。


―――なにもかも、青木が保健室にいかなくなり、教室で過ごすことが多くなってからの出来事であった。


 朱尾のいない保健室では、青木はもはや行く気にはなれなかった。

 今までずっと、自分の居場所であった保健室が、いつしか、朱尾がいてこそ本当に自分が自分になれる場所、になっていた。

 
 大げさに言ってしまえば、朱尾が保健室に来なくなったのが遠因で、青木は卒業までの間、ほとんど充実した時間を過ごせた。

 朱尾が直接影響しているということではないが、彼という存在をなくして、青木はまた違う幸せを手にすることができたのだった。


 しかし感謝する一方で、やはり青木は、朱尾に対して申し訳のない気持ちでいた。

あの時、他人に助けを求めようとするのではなく、自分が奮い立って助けに入っていれば良かったのだ。

 青木および呪法学の生徒の身体は一般人と大差がない。

 彼らが下手に青木に手を出せば、訓練生のほうに厳罰が下される。

 それこそ、大人並みの刑罰が、だ。

 そんな保険があるのだから、怖がらずに、自分が飛び込んで行けば良かったのに。

 青木は晴れやかな思いで卒業してもなを、朱尾へとやるせない思いは、人生初の淡い情とともに、深い傷跡のように残っていた。





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