羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》





「人権、ですか」


 鬼門は吐き捨てた。


「ではあなたは、我々にどのような“鬼”への対処法を提示してくれるのです?
以前あなたがしたように、呪法を用いて地獄のような苦しみを、彼が鬼化するたびに与えろと?」


 それで人権とは、片腹痛い。


 鬼門は笑止するや、酒童の手をさらに強く握った。


「今回議論するのは、彼の生殺与奪についてではなく、妖か人か、どちらの世界に寄越すかの話です。
我々の“鬼を生かす”という意見が通れば、酒童さんは羅刹としてここに残るでしょう。
しかしそうでなければ、彼の身は妖たちに引き渡される」


 鬼門の話に、酒童は戦慄する。

 自分が知らぬ間に、人と妖との間で、自分の命をどうするかを検討されていた。

 そして妖はどうやら、自分を殺したがっている。

彼らの会話から、なんとなくそんなことが察することができた。

 天野田は返す言葉がないのか、悔しげに押し黙る。


「―――それならなぜ、酒童くんにその話をしなかったんですか?」


 天野田は静々と口を開いた。

 しかしその漆黒の瞳は、明らかな怒気を孕んでいる。


「酒童くん本人に、その話をしてやらなかったんですか」



< 335 / 405 >

この作品をシェア

pagetop